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1.到着の夜
大抵、旅の始まりは衝撃からである。
時空を超える為に加速したマシンが目的の異世界へと侵入を果たし、その勢いのまま何かと衝突したり、そうでなくても急ブレーキを踏んで地面を擦り、マシンの上げる悲鳴と、激しい震えを体感しなければならないのだから。
今回は後者の方で、不時着的でありながらもマシな到着だった。大量の砂がクッションの役割を果たし、マシンは半ば埋まるようだったけれど、うん、だいぶだいぶマシな方――運転席と助手席のドアを開ける時に、車内に砂が入ってしまった程度の苦労で済んだ。
外へ出て辺りを見渡せば、そこは冷えた夜の風が鳴き声上げて渡ってゆく砂漠地帯。遠くに、小さな街灯りがぼんやりと見えた。
「ふぅ、今回は上々の到着だな。これならニナの修理も必要ないだろ?」
言いながら、長嶋秀喜はマシンのボディをばんばんと叩いた。剛性でも確認しているような仕草だけれど、壊れたら必ず修理しなければならないマシンに対して、少しばかり粗暴な扱いだと僕は思う――が、マシンの見てくれにその行為がしっくりくるものだから、まぁ仕方が無いかな、とも思った。
なにせ僕達の旅を支えるマシンは性能こそサイエンスフィクションのそれだけれど、外見は白のハイエースだ。ちゃんとトヨタのエンブレムが付いている。
食料や水、工具、予備の修理部品等で満タンになっている車内は雑然としていて、ぱっと見た雰囲気も僕の故郷を走る業者のそれと大差は無い。まぁ、性能を抜きにすれば使い方は同様といったところか。
ニナ・キューブリックは小さく首を横に振った。
「一応、朝に見る」
月明かりが彼女の怜悧な無表情を浮かび上がらせていた。その雪花石膏のような白い肌に、砂漠の夜は案外似合う。
「じゃ、今日はここで野宿だな。ニナのチェックが済んだら、あそこ行くか」
秀喜は街灯りを指差した。僕とニナに異論は無い。
秀喜の、Tシャツの上に羽織ったパイロットジャケットが向かい風にはためいている。
風はそう、街の方から吹いていた。
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