2.ヌンの使い(1)

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2.ヌンの使い(1)

 翌朝、ニナの車検が終わるのを待って、僕たち三人は昨晩見た街へと入った。  衝撃と車検が冒険の為のステップ1だとすると、ここからがステップ2。導入の手順は、いつだって似たり寄ったりである。  具体的にどうするのかと云えば、人里に入って揉め事に絡むのだ。  まずはその世界の統治者か、その地のお役所でも構わないけれど――彼等に旅の万屋を名乗って何某かの仕事を請け負う。謂わばスポンサーを探すのである。そうすることで、その地の通貨や食料の補充、情報を得て、物語を目撃する機会を窺うのだ。  請け負った仕事(揉め事)がいきなり物語の中枢というパターンもままあって、このステップ2はなかなかに重要と言えるだろう。  これに失敗すると後が大変だ――以前、フランツ・カフカの著書の如く、一向に取り合ってくれない巨大な役所に辟易する事態もあった。その時は鼠小僧よろしく義賊活動に身をやつし、最後は逃げるようにしてその世界を去ったのだけれど――。  まぁ…僕にとってはあまり語りたくない類の思い出である。冒険家でリーダーの秀喜ならば、楽しかったと満面の笑みで語りそうだが……。  秀喜とはそういう男だ。彼は冒険を楽しみたいし、その為なら善悪の観念など少々吹っ飛ばしても構わないと、そんな風に考えている節がある。僕はなかなかその考え方に馴染めないでいるけれど、でもしかし、そのおかげで助けられた場面と云うのもいくつか記憶にはあって、取り敢えず、近頃では無茶し過ぎるなと念じるのみである。  ちなみに、ニナはそんな秀喜に全幅の信頼を置いている――というか、表情にこそ表れないが、ぞっこんである。僕のことをお邪魔虫のように思っている節さえある。  街に入るまで砂漠を歩いたが、その時もしきりに秀喜と腕を組もうとしては「暑いから」と振り払われていた。表情には表れないくせに態度が解り易過ぎる――  因みに、これは秀喜が冷たい男であると云うエピソードにはならない。砂漠の上は実際問題として非常に暑く、夜の冷え方とは打って変わったよう――砂漠の寒暖差はなるほど、体験してみると過酷そのものだった。  その点、今回ハイエースの着地点が街からそう遠くない位置だったこと、これはとても幸運な出来事と言える。僕達は一時間程歩いただけで目的の街に入ることができたのだった。
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