端緒

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端緒

 僕、青木祐介はこの『物語』の語り部であり、チーム内では書記という立場にある。  チームの人員は三名――冒険家であり、そしてリーダーである長嶋秀喜、助手兼メイドのニナ・キューブリック、書記の僕――僕達三人は、冒険の為の名も無きチームだ。  ある世界に存在する『物語』の好事家、ガンプ・ボルジアーニ侯の命により、『異世界』へ渡って冒険することが僕達三人の生業であり、つまり『異世界』で体験した『物語』を記録すること、これが書記たる僕の役割である。  ボルジアーニ侯は僕の記録を読み『物語』を蒐集することを生き甲斐のようにしている人物なのだが、彼については多く語るまい――彼を語ろうと思えば彼に対しての『観測』が必要であり、本人は決してそれを望まないのだ。「私は読者なのだから」と、彼ならば、そんな風に言うことだろう。  そう、『異世界は観測されることによって物語となる』――これはボルジアーニ侯の受け売りだけれど、どうやらそうらしい。まるで自然科学における観測者効果のようと僕は感じている――『異世界』というシュレディンガーの猫は、僕達という登場人物の闖入によって状態を変化させ、『生きる物語』としてか、はたまた『死んだ物語』としてか、ともあれ『観測』され、僕によって記録されるのだ。  つまり記録とは、僕達三人の冒険の記録であり、僕達三人が覗くことによって物語と化した異世界の記録、ボルジアーニ候にとっては、蒐集対象の冒険譚――である。  前述の言葉を再利用するなら、今回の冒険は『死んだ物語』か――いいや、明るい見方をするなら『復活の物語』かもしれない。少なくとも――決して『生きる物語』ではなかったと思う。  さて――  今回僕達は、広大な砂漠の世界の中心で、巨大な都市と出会った。  都市は間もなく、命尽きようとしていた――
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