鬼祓い

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 人気の無い城下町の付近で寒々しい光を放つ月だけが静かに見下ろす先には、化け物に取り囲まれた人間がいた。頭の上部で結んだ濡れ羽色の長い黒髪を腰まで伸ばし、すらりとした身体に闇に紛れる紺の衣を纏った中性的な容貌の青年である。青年は己の身の丈の倍ほどもある化け物に囲まれているというのに、眉一つ動かさずに血のような紅い双眸は冷酷に化け物を見つめるだけ。化け物達が青年に襲いかかろうとした瞬間、その者は指を複雑な形で組み、静かに口を開いた。 「ナウマク サンマンダ バサラダン センダンマカロシャダ ソハタヤ ウン タラタ カンマン」 青年の冷たい声とともに、骨まで焼き尽くす炎が現れ化け物を燃やす。化け物の叫びや肉の焼ける臭いに、青年は不快そうに眉を寄せた。 「おのれ、おのれ、おのれええっ。鬼祓いの女如きが、我らを倒せると思うてか!」 「俺が女だと...?」 化け物の声に、青年は初めて作り物のような表情を豹変させた。そして叫びながら襲いかかる化け物の爪をひらりと躱し、化け物のはらわたを手にした刃で切り裂く。化け物の意識が途切れる寸前、青年の美しい顔は般若のように変貌しているように見えた。 「俺を女と呼ぶな」 青年の冷酷な声と共に、化け物の首は宙を舞った。
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