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下々と魔王を隔てる階段を降り切り、少し広い場所まで行き、すうと息を吸い、その小さな口から呪文がこぼれた。
(……え?)
ミシェルの足元に、聖なる光があふれ、魔法陣が現れた。
それは、光の最強攻撃魔法の呪文の出だし部分だった。
どうして魔王が闇の魔法ではなく、真逆の光の魔法なのかはわからなかった。
ただ、ミシェルが最強の呪文を唱えていることはリアムにもわかった。
「そんなもの、ここで唱えたら……」
リアムは慌てて呪文を止めようと立ち上がり、階段を降りる。
そして、小さな子供の口をふさごうとした。
けれど、間に合わない。
「クソっ!」
リアムは悪態をつき、改めて呪文を唱える。
(間に合え!)
リアムは絶望的な気持ちで祈った。
(こんなナリしてても、やっぱり魔王だった……)
そう思いながら、自分でも可能な強い闇魔法を唱える。
(焼け石に水だが、やらないよりはいい)
相手が唱えた逆の属性の呪文を唱え、相殺するやり方だ。
でも、自分の魔法では敵わないことはわかっていた。
こんなに小さくても、魔王の証を額につけているのだ。
魔力が強いから魔王となったのだろう。
リアムは呪文を唱えながら腕でガードをする。
まだ魔法は発動されていないが、威圧感がハンパない。
「……」
ミシェルが呪文を最後まで唱え終わり、聖なる力が辺りにあふれ、魔法の発動かと思いきや、ミシェルはパタッとうつ伏せに倒れた。
「え?」
リアムは、発動しかけた魔法を止める。
光の魔法はどこにも感じられなくなっていた。
魔法陣が消えた赤い絨毯の床に倒れているミシェルを起こして抱き上げる。
「すぅ……、すぅ……」
安らかな寝息が聞こえた。
「おい……」
何の冗談かと思ったが、ミシェルは本格的に眠っていた。
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