2 魔王?

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 今まで人間の村で過ごしていたので、父親以外の上級魔族に会ったこともなかった。  モンスターは遭遇すると襲ってくるので、話したことなどない。  でも、リアムは『自称』魔王のミシェルの隣に座っていた。 「悪い人間はね、ボクの額の宝石を狙って来るんだ」  魔王からすると、『悪い人間』となることを、リアムは改めて知った。  ミシェルの可愛らしく切りそろえられた前髪を上げる。  触れられてビクっとしたが、その額には、大きな宝石が燦然(さんぜん)と輝いていた。  魔王の印だった。  リアムも実物は見たことがなかったが、噂では聞いたことがあった。  魔王には体のどこかに魔王の印が現れると言う。  光の入り方によって、色を変える宝石が憑りつくらしい。  ミシェルの(あご)を持って顔を動かすと、宝石は青・緑・赤・黄と色を変えた。 (実物を見たことがあるわけじゃないが……)  魔王の印でなくても、かなり高価(たか)そうな宝石だった。  金目の物に興味がないリアムでさえ良さそうなものだと思えた。  魔王の印はある程度の意思を持った宝石で、強い魔族に取り憑いて、その者を魔王にすると言う。  強い魔王には目立つ場所に着き、弱い魔王には隠れた場所に着くという。  額に着く魔王は、かなりの強さを有さなければならない。 (強いのか? こいつ……)  どうみてもただの子供である。  肌つやもいい、元気な人間の子供にしかみえない。  リアムは黙って前髪を下ろし、少しでも宝石が隠れるように整えた。 「テレンスがいなくなっちゃって、ボク、どうしたらいいかわからないんだ」  鼻水をすすりながらミシェルは言った。 「親父……どこいったんだ?」 「知らないよ……」  ただの迷子の子供だった。  保護者も見つからずに、らちが明かない。
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