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ある日、目が覚めると、右腕がなくなっていた。
白い天井がまず視界に映り、それからアルコールの匂いが私の鼻をつんとさせた。
しかし、それでも右腕の感覚は戻らなかった。
寝ぼけ眼の頭で感じるのは、穏やかな朝の日差し。
私は病院にいた。
ぼんやりと右腕を見下ろす。
……どうして、右腕がないんだろうか。
私の朝はこの疑問から始まる。
まるで呪いの日課のように。
覚えているのは、ゴムの焼け付く匂い。
巨大なトラックの影と誰かの叫び声。
あぁ、そっか。
理解はしても、言葉にしようとは思わない。
あれは、事故だったのよ。
あれは、不運だったのよ。
でも、生きていて良かったじゃない。
皆の声が煩わしい。
そんな安い言葉で私の心が癒されるとでも思っているのだろうか。
怒るほどの気力さえ湧かない私は、生きている心地なんか全くしなくて、それならいっそのこと、死んでいた方が良かったのかもしれない。
そう考えてはいても、言葉にすることを皆が恐れているから、私は何も言えなくて。
そして、その現実が更に私を生きた死体へと突き落としてゆく。
ガラガラと病室の扉の開く音がして、私は頭を持ち上げて入室者を見やる。
彼女の五体満足で何にも変わらないその姿に私の心は嫉妬と羨望とでぐちゃぐちゃに踏み躙られる。
そんな黒い感情を表情に出さないようにして、私は彼女の訪問を喜ぶ。
……喜ぶ振りをしているだけなのかもしれないけれど。
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