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煌めく笑みを向けて、私の心を串刺しにした。
私の夢は、トロンボーンを吹くこと。
世界を渡り歩くようなトロンボーン奏者にはなれるとは思ってはいない。
だけど、私は一生トロンボーンを吹き続けるつもりだった。
当たり前の事実として、私の世界はトロンボーンで彩られていたのだ。
それを、こうもあっさりと切り捨てられた。
だけど、円香だけは毎日毎日私に会いに来た。
話す内容がなくても、どれほど気まずくても、彼女だけは。
だから、私の心は罪悪感に慟哭した。
純粋に私に会いに来てくれている円香に嫉妬するしかない自分に嫌気が差した。
拳を握り締めたくとも、そう出来る右腕はもうないのに。
そんな悲観的感情に呑み込まれていたからだろうか。
一体何が起きたのかわからなかったのは。
左頬にじんじんとした痛みが走り、寝起きのままの髪の毛は乱れ、私は驚いてその元凶に目をやる。
はぁはぁ、と軽く息を切らしながら、円香が私の上に馬乗りになっている。
あぁ、私は円香に叩かれたのか。
現実的でないその事実に、私の頭はまだ追いつかない。
「……円香、そんなに瞬発力あったっけ」
零れたのは、そんな間抜けな言葉だった。
円香は一瞬、ぽけっとした後、泣き笑いのような顔をして、笑った。
「ふふふ、何、それ。ていうか、朱美ちゃんがぼーっとしてるからでしょ」
そう言って、私の横に一緒に寝っ転がった。
二人で白い天井を見上げる。
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