本編

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「円香でも、感情的になることあるんだね」 「朱美ちゃんは私のことを聖人君子だとでも思ってるの? それか、マリア様か」 「……マリア様か……円香っぽいよね」 「はぁー、朱美ちゃんにちゃんと怒るつもりだったのにな」 ……もう、叩かれてるけどね。 左頬の熱に、私は何だか吹っ切れた気がして、頬が、緩んだ。 「……ねぇ、円香……私、まだ、夢を見てられるよね。まだ、トロンボーン吹けるよね」 声が震えた。 一粒の雫が白いシーツに流れ落ちた。 体内でストンと音がして、私の心は何処かに荷物を置いてきたみたい。 事故に遭ってから、初めて窓の向こうにある空の青さが素敵だと思えた。 円香は、私の左手を自分の右手と繋ぎ合わせた。 「私が、朱美ちゃんの右腕になってあげるよ。いつも一緒に練習してたんだから、スライドのタイミングはばっちりだもん」 そして、こう続けた。 「来年のソロコン、出よう!」 私は涙を隠すことなく、頷いた。 そこからの時間はあっという間だったように思う。 私の世界に少しずつだけど色が戻り始めて、ちゃんと呼吸が出来たような気がした。 トロンボーンを吹いている、その事実だけが私を生かしてくれていた。
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