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卵みたいな月の夜に
一日の終わりにゴミを捨て、卵みたいな月を見上げる。それが由香の日課だ。
しばらくすると、はす向かいのマンションの窓が開いた。
とたんに由香は動けなくなる。
「タケル?」
見上げた窓から、初恋の男が笑っていた。あの頃と変わらぬ髪型と涼し気な目をして。彼は由香に気づくと、愛らしい目を見開いてみせた。
「久しぶりだね、タケル」
由香は静かにわらった。でもタケルは窓を閉めてしまう。昔から恥ずかしがりやな彼を、どうやら驚かしてしまったようだ。
「ごめんなさい!」
由香は全力で走った。
彼のアパートの細階段を一段飛ばしでのぼり、茶色い玄関ドアの前に立った。
トントン。
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