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斜めのラッキョウ
なにを思ったのかナツミトウフはバッグからクリーム色の小さなモノを取り出した。
「どうしました、先輩」
「見ればわかるだろう、ラッキョウだ」
「……意味不明です」
半田恵一、通称パンダはため息を吐いた。
「ご機嫌斜めなラッキョウだから仕方ないんだよね。俺が何言いたいかわかる?」
だからわからないって言ってるでしょう!となかば半ギレ状態で、とりあえずラッキョウを箸で取ろうとしたが、弾かれた。
「先輩、僕はラッキョウにモテないようです」
「まるで女にモテるみたいですなあ、パンダくん」
「酔っぱらってるのかな」
「なに都合のいいこと言ってるんだ、パンダくん。ラッキョウの機嫌が悪いのさ。女のこのように、やさしいくだねぇ」
ふうとラッキョウに息を吹きかけるナツミ。それ僕、ぜったいに食べませんからね、という意外と潔癖なパンダ。
「ほうら、乗った!」
手のひらに乗ったラッキョウは貝殻のようだ。
「ラッキョウって意外とかわいいっすね」
その言葉にナツミは大声でわらった。芝居がかった笑いは、彼の部屋中に響きパンダをひやひやさせる。二階には、ナツミの妹ユズが寝ているのだ。
「そうやって相手に興味を持たないと、デカなんてやってらんねーっしょ」
ナツミが持っていた斜めのラッキョウは、小さく揺れ、ほんの少しだけ真っ直ぐなラッキョウとなった。
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