輝虫

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 老人と別れて家に戻ると、妹のユズがごはんを作ってくれた。ユズは出戻りで、小さな女の子といっしょに二階で暮らしている。 「チビちゃんは」 「寝てる。私もさっきまで寝てたんだけど」  そう言いながら顔をあげたユズの額には、一文字の窪みができていた。おでこを伏せて寝ていたせいだろう。 「最近、やたら眠くて」 「なんだって!」 「やだ、そんな怖い顔して」  ツバが飛んできた。彼女は童顔で愛らしい顔つきの癖に、興奮するとツバを二メートル先まで飛ばせる技を磨き続けている。  トウフは妹の子どもの様子が気になり二階へあがった。長い睫毛を頬にのばして、ほんのり開いた唇から寝息が洩れている。どこも光っていなかった。 「この子も大丈夫」  トウフは微笑んだ。  一階にもどりユズが作ってくれたパスタを食していたら、トウフは叫んだ。 「ひい!」 「どうしたの、兄ちゃん」 「ラビ夫人光ってる!」  ええ、そうなの。照明のせいでしょう。 「ほら見てみろよ、虫が……虫が全身を這ってるじゃないか!」     
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