斜めのラッキョウ

1/1
前へ
/44ページ
次へ

斜めのラッキョウ

 なにを思ったのかナツミトウフはバッグからクリーム色の小さなモノを取り出した。 「どうしました、先輩」 「見ればわかるだろう、ラッキョウだ」 「……意味不明です」  半田恵一、通称パンダはため息を吐いた。 「ご機嫌斜めなラッキョウだから仕方ないんだよね。俺が何言いたいかわかる?」  だからわからないって言ってるでしょう!となかば半ギレ状態で、とりあえずラッキョウを箸で取ろうとしたが、弾かれた。 「先輩、僕はラッキョウにモテないようです」 「まるで女にモテるみたいですなあ、パンダくん」 「酔っぱらってるのかな」 「なに都合のいいこと言ってるんだ、パンダくん。ラッキョウの機嫌が悪いのさ。女のこのように、やさしいくだねぇ」  ふうとラッキョウに息を吹きかけるナツミ。それ僕、ぜったいに食べませんからね、という意外と潔癖なパンダ。 「ほうら、乗った!」  手のひらに乗ったラッキョウは貝殻のようだ。 「ラッキョウって意外とかわいいっすね」  その言葉にナツミは大声でわらった。芝居がかった笑いは、彼の部屋中に響きパンダをひやひやさせる。二階には、ナツミの妹ユズが寝ているのだ。 「そうやって相手に興味を持たないと、デカなんてやってらんねーっしょ」  ナツミが持っていた斜めのラッキョウは、小さく揺れ、ほんの少しだけ真っ直ぐなラッキョウとなった。
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加