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「牧菱村役場」という文字が薄れかけた看板が横に掛かった
安そうなスチール製の引き戸の前に立ち、爽平は、もう一度
手の甲で額を拭った。
ここか――。
所々、壁にヒビの入った役所の向かいには、
「集会所」と看板の下げられた大きな民家のような家が
ひっそりと佇んでいる。
だが、この二軒以外に、辺りには建物は見当たらない。
どうやらここは、里山の一つの入り口に位置するらしく
セミの声が、さっきよりも大きく感じられる。
それに包まれるようにして、爽平は、目の前の銀色の扉を引いた。
ふわっと流れ出てきた冷気の中に足を踏み入れると、
目の前には十二畳くらいの空間が広がり、
その中に、五人の男女がそれぞれのデスクに付いていた。
そして、彼らを包んだ空間の入り口にある
小さな受付カウンターに歩み寄れば、
彼に気付いた一人の中年男性が、薄いファイルを片手に笑顔で近寄ってくる。
「おはようございます。ボランティアの方ですか?」
たぶん、年齢は彼の両親と変わらないだろう。
その男に頷きつつ、爽平は、
チラッと胸に付いているネームプレートに視線を投げる。
その間に、ネームプレートと同じ名前の名刺が
スッと彼の目の前に差し出された。
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