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爽平が入り口に現れた時、確かにその男の視線は、
開いた扉の音に反応するように、こちらに向いていたはずだった。
しかし、彼と視線が合うと同時に、やや怯えるように男のそれがサッと俯く。
正直、感じの悪いヤツだなと思った。
だが、これからひと月もの間、朝から晩まで共にする人間だ。
そこは一応、大人の端くれとして、こちらから短く声を掛けてみる。
「どうも」
だがやっぱり男は、分かるか分からないかくらいに小さく頷いてきただけ。
なんだ、コイツ。
さすがにこの態度には、鼻白むものが爽平の中に浮かんだ。
しかし、
ま、いいや。
胸の中で呟き、それでも彼を視界に入れるのは少々癪で
爽平は、彼と同列の一番前の席を選んで荷物を足元に下ろす。
なんとなく出だしから、モヤモヤしたものが胸を過った。
だから爽平は、それを呑み込むように椅子に腰かけ
買ったばかりの麦茶を喉に流し込む。
しかし、
キシッ――。
そんな音が聞こえてきそうに、たった二人しかいない部屋の空気は
軋んだまま。
だがそれを破るようにして、遠く賑やかな声が扉の向こうから聞こえてきた。
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