1 ボランティアたち

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爽平にとって、物心ついてからこの年になるまで 夏といえば、長い夏休みが当たり前だった。 だが、夏休みだからとて、特別な事が待っている訳でもない。 いや、むしろ平穏な住宅街にある床屋を営む 両親の元に生まれた彼の夏休みイベントといえば、 せいぜい二泊程度の家族旅行。 そんな家族旅行から足が遠のく思春期頃からは、短く夏期講習に通うくらい。 あとは、単に学校がない日常があるだけの毎日に過ぎなかった。 とにかく、生まれてこの方、 爽平の人生に「平凡」以外のものなど有ったためしがない。 両親は、息子の目から見ても いくつになっても、いささかバカップル並の仲良し夫婦。 二ヶ月ほど前に結婚した姉は、 たしかに色んな意味で「猛烈」なヤツではある。 そんな姉が象徴するように、 彼には生まれつき少々の「女難の相」が付きまとってはいるらしい。 だがそれを除けば、爽平の人生も日常も、まずまず静かで平和なもの。 なんとなく漠然とした幼少期を過ごし、 特に部活動にのめり込むような青春もなく、 特別な夢、希望や目標もなく、成績という道しるべのままに 今の大学生活に流れ着いた。
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