1 ボランティアたち

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しかし、二十歳になるからという訳でもないが、 一学年、大学生活が進級した途端、 彼は、にわかに今までのように流される人生ではいられなくなるものに 出くわした。 その名は、「進路」。 それも、今までのように成績だけで流される「進路」ではない。 これからの長い彼の人生の進むべき方向を見定める、決定的な進路だ。 しかし、これが爽平にとっては、なかなかの難問。 なにせ彼は、はっきりと自覚するほど野心とか夢とかとは縁遠く、 この年にしては、かなり無口な(タチ)が物語るように とにかく地味で在り来たりな人間だ。 そして、野心や夢と縁遠い人間には、 この「人生の方向」を決める程の大きな決断は、かなり難しい。 とにかく自分が何をやりたいのか、さっぱり見当が付かないのだ。 だが、そんな悩みが頭の中をゆっくりと巡る中、 夏休みを目前にした友人の独り言みたいな言葉に、彼は引っ掛かった。 こんなに長くて何でもできる夏休みは、人生で実質あと二回。 だから、その時にしか出来ないって事をやらないと、将来的に後悔する。 正直、これを聞いた時は、漠然と「後悔」という言葉だけが耳に残っていた。 だが、試験が終わろうが、夏休みに入ろうが、 それ以来、なぜか彼の心の何かが友人の言葉に引っ掛かり続ける。 そしてそんな時に偶然出会った、ひと夏のボランティア体験という話。 自分以外の誰かのために、か――。 自分の探し物のために、自分以外の役に立つ。 少しだけ、回り道ではないかとも思った。 だが、それまで行き先を見失ってオロオロしていた彼の心が、 この出会いで、一つの方向を見定めた気がした。 だから彼は、それに飛びつくことにした。
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