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そんな諸々の理由を抱えて、自他ともに認める夜行性の爽平が
とんでもない時間に起きて、新たなる体験をするべく
人もまばらな始発電車に乗り込んでから四時間余り。
彼は、一日に両手の指くらいしか走っていないローカル線から
小さなプラットホームに降り着いた。
冷房の効いていた車内から出た途端、ジリジリする暑さが
もんわりと彼を包んだ。
それと同時に、都会とは比べものにならないセミの大合唱が耳に届いてくる。
あっつ……。
胸の内で呟いた独り言とは裏腹に、包まれた暑さが
彼の馴染んだ夏の暑さよりも、わずかばかり爽やかであることに
小さな好感を抱く。
その中、彼は小ぢんまりとした駅舎に向かってゆっくりと歩を進め、
改札へと向かった。
だが駅舎の中の改札を前に、彼は、にわかに足を止めた。
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