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うっわ、マジ……。
改札とは名ばかりで、人の姿がまったくない光景を前に言葉がなくなる。
しかも、ポッカリと口を開けた入り口脇の駅舎の壁には、
そこが改札だと辛うじて知らせるかに
子供でも手の届くほどの高さに木箱が作り付けられ、
「きっぷ入れ」と剥げかけた黒文字が示していた。
いやぁ、田舎の人は、良い人しか存在しないのか。
それとも、これが日本人の原姿というべきなのか。
コトッと微かな音をさせて切符を落とし入れた爽平の口元は、
なんとも言えない笑みに歪んでくる。
だが、ここでの驚きは、まだ始まったばかりだった。
わずか数歩で駅舎を抜けた爽平は、その小さな小屋のような建物を背景に
再び足をピタリと止めた。
うっそ……。
生まれてこの方、彼の知る全ての駅前は、
規模の大小はあれども「繁華」と形容されるに相応しい景色が広がっていた。
だが驚いたことに、この駅舎の向こうに広がるのは広々とした畑。
その広がる畑の間を、やや広い通りが真っ直ぐに伸び
ずっと向こうには、里山がのんびりと緑に連なっている。
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