3人が本棚に入れています
本棚に追加
燦々と降り注ぐ夏の太陽の下で、爽平は、思わずポカンと佇んだ。
バスも車も、走るどころか姿もない。
いや、それ以前に人の姿も見当たらない。
そして、目に出来る建物といえば、
畑の奥まった所に小さく点在している民家らしき数軒だけ。
なんとなく異次元にでも迷い込んだような錯覚に、彼は、にわかに包まれる。
しかし、ここが異次元でないことを示すかに、
彼は、手にした一枚の案内に目を落とした。
ボランティアの申し込み手続きを済ませて数日後、
村役場から送られてきたこの案内を見た当初、
彼は、随分と手抜きな地図が描かれていると思った。
しかしこれは、全く手抜きなどではない。
まさに、目の前のこの光景が案内の隅に描かれた地図になっている。
まぁ、行くか。
ひとつ息をついた彼は、やっと驚きの衝撃から覚めたように
小さく胸の内で呟いた。
そして、下げていたスポーツバッグを「よいしょ」と肩に掛け直し、
彼は、ゆっくりと目の前の道を歩きだした。
最初のコメントを投稿しよう!