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止められるのか?
『反対です』と、声が出ない。
式を壊すことはできない。
「異議がなければ今後何も言ってはなりません」
牧師は新郎に誓いの言葉を促した。
「あなたはこの女性を健康な時も病の時も富める時も貧しい時も良い時も悪い時も愛し合い敬いなぐさめ助けて変わることなく愛することを誓いますか?」
「はい、誓います」
「木瀬みゆき、あなたはこの男性を健康な時も病の時も富める時も貧しい時も良い時も悪い時も愛し合い敬いなぐさめ助けて変わることなく愛することを誓いますか?」
「・・・」
みゆきは沈黙していた。
「いやだ!!」
僕は叫んだ。
我に返り、立ち上がって自分に驚いた。
皆が僕を見ていた。
みゆきと目が合った。
みゆきが泣いている。
僕は、涙が溢れてきた。
『また、みゆきを不幸にしてしまった』
そう思った。
駄々を捏ねる子供の様に泣きながら
「いやだ!!」
と叫び、逃げるようにドアに向かった。
「まって」
みゆきの声がした。
『すまないと』と心で思い、
泣きじゃくりながら振り返った僕の胸にみゆきが飛び込んできた。
みゆきの匂いがした。
僕は、みゆきを強く抱きしめた。
「この人は、僕がお嫁さんします。僕が幸せにします」
僕は、宣言した。
周りから拍手が一斉におこった。
みゆきが抱き着いたまま離れない。
義男が泣いている。
祭壇で牧師と新郎が笑顔で拍手を送っている。
結婚式は再開された。
それは、幸せな結婚式だった。
騙された幸せな新郎は、僕だった。
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