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数時間電車に揺られ、駅を出たら、久しぶりの故郷だった。
義男は車を取りに行った。
待っている間、知合いに会わないことを願った。
クラクションを鳴らして、車が止まった。
立派な車だった。
「いい車だな」
「ああ、何とか手に入った。縁で・・・な」
式が始まる直前に教会に付いた。
皆、既に、祭壇に向かい着席している。
義男は、僕をバージンロード中程、祭壇から右側に座らせた。
「俺はみゆきをエスコートする、じゃぁな」
と言って僕から離れた。
周りが、見て見ぬふりをしている、
不思議な静寂がいっそうそう感じさせた。
僕は、俯いて式が始まるのを待った。
「これより、新郎後藤一樹、新婦木瀬みゆきの結婚式を行います」
牧師の声が響いた。
「讃美歌讃頌、ご起立下さい」
歌声とオルガンの音色がホールに木霊した。
讃美歌の中、みゆきの顔が何度も浮かび上がった。
子供の頃、一緒に暮らしていた頃の笑い顔と寂しそうなみゆきが交互に浮かんで来た。
胸が詰まり、言い知れぬ不安に包まれた。
自分の中の何かが失われてゆく、そんな思いがした。
一人、座り込んで顔を伏せた。
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