君か僕のいない夏

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15センチが届かなかった。 15センチが埋まってしまった。 どちらであっても、そこに僕ら二人の未来はない。 「そっち、雨やんだ?」 そう聞かれ、はたと、傘を打ち付けていた雨音が聞こえないことに気が付いた。 「ああ、やんだよ。」 蒸し殺されるような暑さはなく、ほのかに秋のにおいを感じた。 「これで、終わりだね。」 「うん、話させてごめん。」 「ううん、私も誰かに、話したかったのかもしれない。」 いまだ雨の残滓でけぶる景色に、あの夏の暴力的なまでの鮮やかさはない。 「最後に一ついいかな。冬樹、君は勘違いしていることが一つある。」 「勘違い?」 「ナツキは、フユキに手を伸ばしたと。そしてフユキはナツキの手を取り損ねたと。」 「……ああ、」 僕らの一番の違いで。僕らにとってもっとも自分の心の多くを占めた、その瞬間。届かなかった手は、 「違うんだよ。私は助けてほしくて手を伸ばしたんじゃない。落ちる前から、私はフユキに手を伸ばしてた。」 「え、」 「一人で船に乗ってアメリカに行けるよ。一人でロケットに乗って、空の向こうにだって行けるよ。私は、そう言ったね。でも私はまだ言おうとしたことがまだあったの。」 かすかに開いた口、伸ばされた褐色の小さな手。 それは、悲鳴ではなく、それは助けを求めるものではなく、 「『馬鹿にしたこと謝るなら、フユキも一緒に連れて行ってあげるよ。』本当は、そう続くはずだった。」 この先も一緒にいようという、朗らかな声だった。一緒に行こうと誘う、その手だった。 「落ちたから手を伸ばしたんじゃなくて、その前に一緒に行こうって、手を取ろうとしてたんだよ。」 「それは、」 「だからどうか冬樹、助けを求められたのに、助けられなかった、手が届かなかったって思わないで。落ちていく私は真っ白で、何も考えてなかったから。……死んだ私もたぶん、なんにも考えていなかったよ。」
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