君か僕のいない夏

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それは青天の霹靂で、同時にひどく不安にさせられた。まるで僕が手を伸ばしたことなんて、すべて無駄だったみたいで。なんの意味もないと言われているようで。 あの15センチが埋まって、ナツキを助けられたとしたら、ナツキは僕を恨むのだろうか。 「夏葵、勘違いではないけれど僕からも一つ言わせてほしい。」 「……何、」 「フユキは、僕は、たとえあの15センチが埋まってナツキが生きて自分が死ぬことをわかっていたとしても、必ず手を伸ばしたよ。どんな不利益があったとしても、それでナツキが助かるなら僕はどんな方法でも喜んで飛びついたよ。」 「それは、」 「それでも良いって思えるくらい、フユキはナツキのことが好きだったんだ。」 返事はなかった。 ナツキはフユキに助けを求めていなかった。だから助けられなかったと、冬樹が感じ続ける必要はない。 フユキはナツキを何をしても助けたいと思ってた。だからその結果死んだとしても、夏葵が自責の念に駆られる必要はない。 それは表面上慰めであり、そして死後勝手に思いを解釈されて、勝手に責任を感じられる死者の苦言だった。 手が届かなかったことを悔やまないでいて。たとえ手が届いていて、ナツキが生き、フユキが死ぬことになっても、誰も幸せにはならなかったから。 手を伸ばしていたことを悔やまないでくれ。たとえその手を掴めず、フユキが生き、ナツキが死ぬことになっても、誰も幸せにはならなかったから。 悔やもうとも、もしもを夢想しようとも、生きている人間は手元に残ったものとともに生きなければならないから。 何より、僕らは感じていた。この夏の間不思議なノートを介して20歳になった親友と話していて、決して埋まることのない違和感を。 ナツキとフユキは、唯一無二の親友だった。 けれど夏葵と冬樹はもう、かつて親友であったという間柄だった。 ナツキはフユキのいない10年を歩んできた。フユキはナツキのいない10年を歩んできた。 夏葵はナツキであり、冬樹にとってのナツキじゃない。 冬樹はフユキであり、夏葵にとってのフユキではない。
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