君か僕のいない夏

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怒り、怪訝、戸惑い、悲しみ、処理できない感情が綯交ぜになる。そんな坩堝に、ぷかりと一つの馬鹿馬鹿しい考えが浮かび上がる。 「ナツキは、生きてるんじゃないだろうか。」 ナツキは死んだ。葬式だって出た。でもその体を、僕は見ていない。僕の見た最後のナツキは生きていた。驚愕の色に顔を染めていたけれど、確かにナツキは生きていた。落ちていいたナツキの姿をのぞき込んでも木に隠され、見えなかった。僕は半狂乱になりながら、転がるように山を駆け下りて、大人を呼んだ。それきり、ナツキにあることは二度となかった。 もしかしたら、どこかで生きているかもしれない。だって、あの時のことを知っているのは僕とナツキだけだから。 色褪せたノートから目が離せない。乾ききった喉で唾を飲み込んだ。 二度と会えないはずの友達。あの日15センチ届かなかったがために永遠に失われた友人が、生きているかもしれない。僕の目の前にいなくても、生きているとこのノートに書き記してる。 割り切っているはずだった。死んだ人間とは二度と会えない。10年前に死んだ友人は、もういないのだと。 でもこうして、不確かで、不明瞭で、その声も顔もないのに縋ってしまいたくなったんだ。 この人のいうフユキが必ずしも僕じゃないかもしれない。それでも、もしかしたら、と。 だから僕とナツキだけがわかることを。 今まで一度も書いたことのなかったノートに震える手で文字を書いた。 「2017年7月10日晴天。僕の大好きな親友がここで死んで、今日で10年がたちました?―――」 「教師になりたいと言っていた僕は、教育大学に通っています。もしも、これをナツキが読んでくれることがあるなら、届かなくて、ごめん。」
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