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用意されていた館には、皇宮から馬車で一刻ほどだった。
皇都マグダリア・オーセンの郊外で、長閑な土地。
帝国芸術院も、館の近くにあり馬車で半刻という距離だと御者が話していた。
館には、小さいが頑強な門扉に、奏の顔が見える背丈の樹木が門扉の両脇から館を囲うように植えられている。
御者が荷物を持ち、門扉を開く。
ニホンに住んでいた時の屋敷よりも大きな庭が広がっており、煉瓦仕立ての道が玄関まで続いていた。
「こんなに素晴らしい館に……いいのかしら?」
「皇帝のご厚意だ。甘えておこう」
「奥には薔薇園もごぜぇます。お嬢さま」
御者が下町訛りのあるフランス語で話す。
「私は“お嬢さま”と言われる様な身分でもないのよ、シュッテン」
「いいや、オイラからすれば十分お嬢さまです」
装いは派手ではなかったものの、気品と教養が満ち溢れるカナデにシュッテンは年甲斐にもなく心が躍った。
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