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私には声を、君には恋を
「あんた、いつも思うけど声でかいわよね。」
夏。蝉の鳴き声は閉め切った教室にすら入り込んでくる。うるさい、と思った時、ふと言葉が口からこぼれた。隣の席に座っていた男は、突っ伏した体勢のまま顔だけ私の方に向けてきた。私と目が合い自分に言われた事を理解すると、「何、喧嘩売ってんの?」と答えた。その声は眠そうなのに、やはりどこか耳障りだ。
「売ってないけど、ただちょっといつも煩いなぁって思ってるだけ。」
「売ってるだろ。それ絶対売ってるだろ。買うぜ?喧嘩売ってるなら買うぜ?」
「ほーら、大きな声。売ってないって言ってるでしょ?何で金にならないもの売らなきゃならないのよ。そんなに売ってもらいたいならコンビニににでも行ってくれば?」
「てめぇ…!」
暑い中、さらに暑そうな声でそいつは叫んだ。一方で私は涼しい表情をしつつ、緑色の透けた下敷きで自分を仰ぐ。汗が冷えて涼しくなる。
「はい授業中は静かにしましょーね!」
そういうと、英文を書き終えた石和田ちゃんがチョークを持ったままこちらに振り返った。
「あーあ、どっかの誰かさんの声が馬鹿でかいからバレちゃった。」
「お前が言いだしたんだろ!」
「ほーら、言ったそばから喧嘩しないの!」
「「はあーい。」」
お互い睨み合う。周りのクラスメイトは若干机を動かして私たちから離れているようにも見えるけど、きっと気のせいだ。大声男は面倒臭くなったのか、再び机に突っ伏した。私はまた蝉の音が鳴り響く教室で、石和田ちゃんが黒板に記していく意味のよくわからない英文をノートに書き写す作業をするのだった。
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