私には声を、君には恋を

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授業終了を告げるチャイムが鳴ると同時に「終っわりー!」と大声を出したのは、やっぱりあいつだ。声の大きさと、大袈裟な動きですぐにわかった。 「…。まだ授業終わらせてないのだけどね?」 「ごめんなさい。」 石和田ちゃんが投げたチョークををおでこに食らって着席する。ざまあみやがれ。日直が授業終了の合図を終えると、ほぼ同時にやってきたマッピンが帰りの会を始めた。明日の行事の説明とか、事務的な話を終えると、日直に帰りの号令をするように命令する。 「晃OLの新作買ったんだろ?今日お前ん家でやろうぜ。」 「おっしゃおっしゃ。今日丁度部活休みなんだ。」 「近藤から聞いてたんだなぁこれが。ついでに犬も誘おうぜ。」 「あいつ飼い主と帰るんじゃねえの?」 「ゲーム好きだし誘えばくるべ。」 馬鹿でかい声でクラスメイトを誘う馬鹿男。端っこの席から、扉の前にいる私にすら届くその大きな声が耳について、なんとなくちょっかいをかけたくなる。 「あーあーやめなさいよ。そんな騒音みたいなバカでかい声、近所迷惑になんじゃん。」 「はあ?」 暑さからだろうか、苛ついているのが見てわかった。クラスメイトが私に声を掛けようとする。今思えば制止のための行動だったと思うが、なんとなく苛ついているあいつの顔が面白くて、私は言葉を続けた。 「この暑い時期にあんたの暑苦しい声聞くと余計に暑苦しくなって、めっちゃ迷惑なんだよね。」 「…今日はやけに突っかかってくんじゃん。なんだよ?俺なんかしたか?」 「なんかしたかって言うか、だから、その大きな声が耳障りなんだってば。聞き飽きちゃっ」 言葉の途中、大きな音が教室に響いた。立っていたはずの椅子が倒れていて、その上にはあいつの足が乗っていた。蹴飛ばしたのだとすぐに分かった。 「煩くして悪かったな。」 「な、何キレてんの?きもいんですけど。」 「…ちっ。帰ろうぜ晃。おい犬!お前もくるだろ。」 「お、おう。」 「え、俺?!う、うん…。」 蝉の音が静かになった気がした。最後に喋ったあいつの声も、なんだかいつもより小さく感じた。
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