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「なに……見てんだよ……」
確認しなくても、瀬名に見られているのがわかる。視線が肌に突き刺さるようだった。
散々あんな事をしておいて今更、ではない。あんな事をしたからこそ余計に、こうして向かい合って風呂に入るだけで恥ずかしくて堪らない。
「悠木さんが可愛いなあと思って見惚れてるだけですが?」
真顔で返されて顔に熱が集まる。
「……てめ、ふざけんなっ」
「ふざけてませんよ。可愛いって言っても女の子に対して使う『可愛い』とは違います」
ザバッと音がして、瀬名が近付いてくる。そう広くはない湯の中では逃げる間もなく捕らえられて、頬に手を添えられた。
「愛しい、って事です」
囁いた声は、真新しい夜の記憶と同じだった。反射的に肩を震わせると、瀬名は含み笑いをした。
「今……思い出したでしょう?」
何が、とは口に出さない。
「ざけんな! ンな訳ねえ」
「そうなんですか? 俺はずっと反芻しっぱなしでヤバイです。頭の中で、さっきからずっと悠木さんが色っぽい声で……」
「やめろっ!」
瀬名の言葉を掻き消すように、お湯を掬って、瀬名に掛けた。
「ちょ、悠木さん! ……わ、やめて下さい」
我慢できない。恥ずかしくて、茹だった頭が爆発しそうだった。子供みたいに一心不乱に両手を振り乱した。
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