第6章

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 無残な姿になったコートとスーツは、この地域唯一のクリーニング店に特急で仕上げてもらい、朝食を摂ったあとに届けてもらった。この辺りの地理はさっぱりの俺達にはなす術がなく女将の提案に甘えてしまったが、きっと多大なる迷惑を掛けてしまった事だろう。 (それに加えて……)  布団を片す時も、朝食を持ってきた時も、女将の態度は昨夜と何も変わらなかったが、その間俺は穴があったら入りたいどころの騒ぎではなかった。例えではなく、所持金全てを手渡して土下座したい気分だった。  結局、宿泊代とは別に、部屋のテーブルの上にティッシュに包んだ一万円を置いてきた。宿を出てから、「恥ずかしい」と「死にたい」を連呼しながら駅に向かって歩いた。  駅の構内は昨日と変わらず静まり返っていて、電車が発車するまで四十分も待たされた。 「……それで、なんで俺達はまた鈍行に乗り込んでるんですかね? しかもこれ帰りとは逆方向ですよね?」 しばらく電車に揺られて、乗り換え駅に到着すると、俺は瀬名を引っ張って違う電車に飛び乗った。 「不満か?」  もっと遠くに行ってみたいと衝動的に思って、気付けば行き先も知らない電車に飛び乗っていた。理由や目的なんて何もない。 「答えなんて知ってるくせに……」  少し悔しそうに瀬名が呟く。俺はそれを見て満足げに頷いた。  発車を知らせるベルと共に、扉が閉まる。駅のホームを置き去りにして、電車は加速度を増していく。各駅停車のいなたい電車にあてもなく揺られる。  ずっと遠くまで続いている線路が、どこに辿り着くものなのかは知らない。だけど、隣にこいつがいるのなら、どこだっていいような気がしたし、……どこへだって行けるような気がした。 【END】
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