1204人が本棚に入れています
本棚に追加
「それでは遅くなりましたが、瀬名くんと笹本さんの入社を祝して!」
幹事が音頭を取ると、全員が一斉にグラスを合わせた。会社の近所にある居酒屋はウチの社員行きつけの店だ。新人歓迎会と銘打ち貸し切った座敷には、第二営業部の面々総勢十五名がぎゅうぎゅうに詰まっている。テーブルの端に座った瀬名は、さっそく女性連中の餌食になった。もう一人の新人である笹本は、瀬名の反対側で同じように男共に囲まれている。不憫だがこれもいい修行の場だ。これしきの事で音を上げていては、接待なんかやってられない。
「もう仕事は慣れた?」
「はい、お陰様で。悠木さんの教え方がわかりやすいので」
瀬名は隣に座る俺をちらりと見てにっこり笑う。
「……おお。悠木、ちゃんと仕込んであるわねぇ」
瀬名の優等生な答えに、上司である遠藤さんがニヤニヤと俺を見遣る。
「悠木ってぶっきらぼうでしょう? 人遣い荒いし。いじめられたら言ってね」
言いたい放題の遠藤さんに、黙っていられないと口を挟む。
「ちょっと遠藤さん、人聞き悪い事言わないで下さいよ」
「あら、本当の事でしょ。口悪いし、よくキレる。女子には優しいんだけど男には容赦ないもんねえ」
「そうなんですか?」
興味津々というように、俺の顔を覗き込んできた瀬名をギロリと睨み付ける。
「黙ってたら結構男前なのにねえ。仕事もできるし……勿体ない」
遠藤さんはわざとらしく溜息を吐いた。これ以上自分のネタで盛り上がられるのは嫌で、すぐ側にあった瀬名の腕を肘で突いた。
最初のコメントを投稿しよう!