第2章

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 どうにかデザイナーを説得して、自分のデスクに戻ったところで定時を迎えた。一度コンビニに夜食を買いに出て、残業前に一服するかと喫煙所に向かうとそこには先客がいた。 「お疲れ様です」 「あれ? 瀬名って煙草吸う奴だったか?」 「社会人になる前にやめてたんですが、最近悠木さんが美味しそうに吸ってるの見てたら、また手が伸びちゃいました」 「おいおい。自分の意思が弱いのを人の所為にしてんなよ」  悪態を吐きながらも内心は大歓迎だ。どんどん肩身の狭くなる愛煙家としては、同士が増えるに越した事はない。 「お前も残業?」  火をつけた煙草を深く吸い込み、ゆっくりと煙を吐き出した。瀬名は苦い顔で笑いながら頷く。 「せっかくの金曜に残業とかいい加減虚しいよなあ。あービアガーデン行きてえ」  連日の真夏日だ。日中、散々汗を流して乾いた体に、キンキンに冷えた生ビールはさぞ染み入る事だろう。 「ビールで一杯、には大いに賛成ですが、今は仕事が楽しいので残業はそんなに苦ではないですよ」  平然とそんな事を言ってのける瀬名に、俺は思い切り顔を歪めた。 「うっへー、ありえねえ。俺も仕事は嫌いじゃねえけど、進んで残業はやりたかねえな」  端から俺のリアクションを予測していたように、瀬名は煙草を銜えたまま笑った。 「なんつーか、若さが眩しいわ」 「若さって、悠木さん俺と二つしか変わらないじゃないですか」 「二歳差じゃねえ。三学年違うの」  三月生まれの俺と、五月生まれの瀬名とでは、三つの年齢差が生じるのは実質二月もないが、三学年差は三学年差だ。 「そこ、拘るところですか?」 「馬鹿言え、三学年違いはでかいっつーの。中学も高校も同じ時期に通う事ねえんだぞ」 「まあ、そうですけど……」  瀬名はだからどうしたと言いたそうな顔で首を傾げた。 「もっと敬え、崇めろ。って事で煙草一本寄越せ」  真顔ですっと手を差し出すと、瀬名がぶっと噴き出した。
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