1194人が本棚に入れています
本棚に追加
/74ページ
どうにかデザイナーを説得して、自分のデスクに戻ったところで定時を迎えた。一度コンビニに夜食を買いに出て、残業前に一服するかと喫煙所に向かうとそこには先客がいた。
「お疲れ様です」
「あれ? 瀬名って煙草吸う奴だったか?」
「社会人になる前にやめてたんですが、最近悠木さんが美味しそうに吸ってるの見てたら、また手が伸びちゃいました」
「おいおい。自分の意思が弱いのを人の所為にしてんなよ」
悪態を吐きながらも内心は大歓迎だ。どんどん肩身の狭くなる愛煙家としては、同士が増えるに越した事はない。
「お前も残業?」
火をつけた煙草を深く吸い込み、ゆっくりと煙を吐き出した。瀬名は苦い顔で笑いながら頷く。
「せっかくの金曜に残業とかいい加減虚しいよなあ。あービアガーデン行きてえ」
連日の真夏日だ。日中、散々汗を流して乾いた体に、キンキンに冷えた生ビールはさぞ染み入る事だろう。
「ビールで一杯、には大いに賛成ですが、今は仕事が楽しいので残業はそんなに苦ではないですよ」
平然とそんな事を言ってのける瀬名に、俺は思い切り顔を歪めた。
「うっへー、ありえねえ。俺も仕事は嫌いじゃねえけど、進んで残業はやりたかねえな」
端から俺のリアクションを予測していたように、瀬名は煙草を銜えたまま笑った。
「なんつーか、若さが眩しいわ」
「若さって、悠木さん俺と二つしか変わらないじゃないですか」
「二歳差じゃねえ。三学年違うの」
三月生まれの俺と、五月生まれの瀬名とでは、三つの年齢差が生じるのは実質二月もないが、三学年差は三学年差だ。
「そこ、拘るところですか?」
「馬鹿言え、三学年違いはでかいっつーの。中学も高校も同じ時期に通う事ねえんだぞ」
「まあ、そうですけど……」
瀬名はだからどうしたと言いたそうな顔で首を傾げた。
「もっと敬え、崇めろ。って事で煙草一本寄越せ」
真顔ですっと手を差し出すと、瀬名がぶっと噴き出した。
最初のコメントを投稿しよう!