第2章

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 週を跨いでからも仕事状況は落ち着かないままだった。企画書の締め日が重なり、ここ数日は終電帰宅が続いていた。  終業時刻をとっくに過ぎた午後十時前。第二営業部のブースには誰もいない。それどころか隣の部署も全員帰宅したのか、ガラスのパーティションの向こう側は既に照明が落とされている。  長時間PCと格闘していた所為で目の奥が鈍く痛む。肩には漬物石が載っている感覚。集中力が途切れると、急激な空腹感に襲われた。何か買いに出るかと思ったが、面倒くさくて結局行動には移さなかった。空腹を紛らわす為に缶コーヒーをがぶ飲みしていると、机の上に置いていた携帯電話が震えた。確認すると彼女である美奈子からのメールで、文面と一緒に画像が添付されている。それは濃紺の空に綺麗に光る花火の写真だった。 『今日も残業かな? お疲れ様。さっき友達と花火大会に行ってきたよ。すごく人がいっぱいで身動き取れなかったけど綺麗でした。篤也くんの会社からも見えたかもね』  メールに目を通して、今夜この近くで花火大会がある事を思い出した。  美奈子とは二ヶ月程前に食事に出掛けて以来、再び顔を合わせない日々が続いていた。放置してばかりで申し訳なく思うが、文句を言われた事はなかった。俺には勿体ないくらいよくできた彼女だと思う。
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