第2章

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 携帯を閉じて机に戻すと、不意に背後で物音がした。まだ誰か残っていたのかと思って振り返ると、そこには紙袋を手にした瀬名が立っていた。 「なんだ、帰ったんじゃなかったのかよ」 「打ち合わせが長引いてしまって」  壁に貼り付けてあるボードを見ると、瀬名の欄には社外で打ち合わせと記入されていた。 「これ、差し入れです」  瀬名は俺の側まで来ると、手にしていたコーヒーチェーン店の紙袋を差し出した。 「悠木さん今日も残業だろうなと思って」  受け取って袋を覗くと、チキンのサンドウィッチとサラダ、スープが入っていた。俺は目を見開いて瀬名を見る。 「今お前が神様に見えたわ」 「随分安上がりな神様ですね」  瀬名は小さく噴き出して、俺の隣の席に座る。自分用に購入したアイスコーヒーに口を付けて一息ついた。 「お前帰らねえの?」 「お邪魔ですか?」 「いや、別に。つーか俺今からメシ食うし」  俺は早速、瀬名が買ってきてくれた夜食を取り出す。 「ならよかった。今、外がすごい人混みなんです。時間ずらして帰ろうと思って」 「ああ、そっか。花火大会あったからだろ。すげえ人だったみてえだから」 「あれ、よく知ってますね」 「あー、行った奴からメール来てて……」  言ったあと、「マズった」と思いつつ、サンドウィッチを頬張った。 「彼女ですか?」 「……まあ」  口の中の物を噛み砕きながら、くぐもった返事をする。やっぱり食いつかれてしまった。
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