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携帯を閉じて机に戻すと、不意に背後で物音がした。まだ誰か残っていたのかと思って振り返ると、そこには紙袋を手にした瀬名が立っていた。
「なんだ、帰ったんじゃなかったのかよ」
「打ち合わせが長引いてしまって」
壁に貼り付けてあるボードを見ると、瀬名の欄には社外で打ち合わせと記入されていた。
「これ、差し入れです」
瀬名は俺の側まで来ると、手にしていたコーヒーチェーン店の紙袋を差し出した。
「悠木さん今日も残業だろうなと思って」
受け取って袋を覗くと、チキンのサンドウィッチとサラダ、スープが入っていた。俺は目を見開いて瀬名を見る。
「今お前が神様に見えたわ」
「随分安上がりな神様ですね」
瀬名は小さく噴き出して、俺の隣の席に座る。自分用に購入したアイスコーヒーに口を付けて一息ついた。
「お前帰らねえの?」
「お邪魔ですか?」
「いや、別に。つーか俺今からメシ食うし」
俺は早速、瀬名が買ってきてくれた夜食を取り出す。
「ならよかった。今、外がすごい人混みなんです。時間ずらして帰ろうと思って」
「ああ、そっか。花火大会あったからだろ。すげえ人だったみてえだから」
「あれ、よく知ってますね」
「あー、行った奴からメール来てて……」
言ったあと、「マズった」と思いつつ、サンドウィッチを頬張った。
「彼女ですか?」
「……まあ」
口の中の物を噛み砕きながら、くぐもった返事をする。やっぱり食いつかれてしまった。
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