第2章

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「もう休憩終わり! 俺は仕事する!」  家族の事を話すのは、彼女の話題以上に照れ臭くて唐突に話を切った。おかしい。こんな事まで話してしまうなんて。三年以上付き合った恋人にすら、そんな話をした事はない。物腰柔らかな瀬名の態度がそうさせるのだろうか。それとも、自分で思っている以上に、俺は瀬名に気を許しているんだろうか。  わざとらしくPC画面に向き直ると、瀬名は席を立った。 「それじゃあ俺は帰ります。あんまり根詰めないで下さいね」  俺は「ああ」と素っ気ない返事をする。帰り支度を手早く済ませて去っていく瀬名に目もくれなかった。 しかしある事を思い出して、床を蹴りキャスター付きの椅子を方向転換した。 「あの、瀬名」  ブースをあとにしようとしていた瀬名が立ち止まって振り向く。 「……メシ、サンキューな。すげえ助かった。……ご馳走さん」  さっきの事が尾を引いてか、素直に礼を言うのはいつも以上に照れ臭かった。けれどものすごく助かったのは事実だし、その辺の筋はきちんと通しておかないと気が済まない。  瀬名はびっくりした表情で俺を凝視してから、「どういたしまして」と答えた。いつもの隙のない完璧な笑顔ではなく、少し照れたように綻んだ表情に……思わずドキリとした。  瀬名が出ていくのを見送って、再びPC画面と向き合った。けれど子供みたいに笑った瀬名の表情に意表を突かれたからか、なかなか落ち着かず集中できない。気付くと何も手を動かさないまま数分経っていた。慌てて我に返り、ようやく仕事を再開した。
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