第2章

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 俺の所属する第二営業部、延いては会社全体を揺るがす吉報が舞い込んだのは、夏が終わろうとしていた頃だった。 「瀬名、それと悠木。ちょっと来い」  昼休みに差し掛かる少し前、俺と瀬名は部長に呼び出された。突然の事に驚き、隣の瀬名を見ると微笑を返される。俺とは違いどうやら瀬名は、呼び出された理由に心当たりがある様子だった。連れて行かれた会議室で、部長は早速本題を切り出した。 「瀬名はもう知ってると思うが、アクセサリーブランドの【トワリィ】から依頼があった」  聞こえた言葉が一瞬理解できなかった。 「……【トワリィ】ですか?」  それは代官山に店を構える有名なブランドで、支店こそないが通信販売に対応しており、女性に絶大的な人気を誇るショップだ。 「なんでまた……」  まだ状況が飲み込めない。【トワリィ】程の有名店の広告なんて、それこそ大手で取り合いだろう。うちにはコンペの案内すら来る事はまずない。 「瀬名が担当している【ChiRin】の竹下社長が、【トワリィ】の社長と懇意の間柄だそうでな、ご紹介して下さったんだ」  部長の言葉に、久しく顔を見ていない竹下さんの顔を思い浮かべた。瀬名に担当を引き継いでから既に半年近い。 「竹下社長の推薦も大きいだろうが、【トワリィ】が随分ウチの広告を気に入ってくれたらしくてな。一度仕事をしてみたいとの事だ」  経緯を聞いて、それが現実の事なのだと脳が理解をすると、心臓が大きく脈打ち、体中へ熱いものが流れていくのを感じた。
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