第2章

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「そこでだ。この案件を瀬名と悠木に任せたい」  部長は俺と瀬名の顔を順に眺めて、一語一句切るようにそう告げた。その瞬間、ざわりと全身に鳥肌が立つ。 「実質、瀬名が獲ってきたようなもんだから瀬名が就くのが順当だ」  部長はデスクの上に肘をついて、組んだ指の上に顎を載せる。 「それまで【ChiRin】を担当していた悠木の功績も大きいと俺は思う。ちょうど瀬名からの希望もあった。もう一人はお前が妥当だろ」  表情を緩めた部長が俺を見る。意外な言葉に横を向くと、微笑を浮かべた瀬名が軽く頷いた。 「まあしかしだ。我が社始まって以来のでかいクライアントって事で、人選は慎重にしろと上から釘を刺された」  うんざりした顔で部長はがしがしと頭を掻いた。 「お前らはうちの部署で一番若いコンビだ。上や他部署はそれが気に食わないらしい」  俺は瀬名と顔を見合わせた。 「だから俺はつい言っちまったんだよ。うちの部署は年功序列じゃなくて実力重視なんで、って」  四十代半ばの部長は、年相応の皺が刻まれた顔ににやりと笑みをのせる。 「って事でお前ら俺の顔潰すんじゃねえぞ」  悪戯っぽい視線を寄越されて、俺も瀬名もつられて笑みをこぼした。 「じゃ、二人で頑張れよ。なんかあったらすぐに相談しにこい」  部長はそう言い残して、先に会議室をあとにした。
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