第3章

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第3章

 いざプロジェクトが始動してからは、まさにてんてこ舞いだった。楠木企画はクリエイティブ部を擁しているが、通常の案件でも社内の人員だけではまかなえない事がある。そんな場合、足りない人手は外部の制作会社に手を借りる。今回はそれに加えて、普段縁のないCM制作会社や大規模な市場調査の為のリサーチ会社など、規模が大きい分係わる人間の数は比べものにならない程多い。それらを全て把握して手配し、纏め上げるのが俺と瀬名の仕事だった。  今回依頼された案件は、数ヶ月に渡って展開されるアクセサリーシリーズの宣伝だった。クリスマス商戦に向けての第一弾が十一月から発表され、三月のホワイトデーまで順々に商品展開されるというものだから、結構な長丁場になる。クライアント先に出向き、商品のコンセプトや意向を聞いて、綿密に打ち合わせを行い、イメージモデルや広告の方向性を決めていった。  瀬名は相変わらず、クライアントや外注先の女性陣からもてはやされている。今回イメージモデルを務める事になった、若い男女に人気のある女性タレントにも、あからさまなモーションを掛けられていた。あまりのモテっぷりに、「お前が営業にいる限りうちの会社は安泰だ」とからかうと、瀬名は拗ねたような顔をした。  慌しくも充実した日々に、時間はあっという間に過ぎていく。  十月に差し掛かろうとしていた頃、俺は社内の会議室で頭を抱えていた。室内にいるのは俺と瀬名。そして以前他の案件でも仕事をした事のある外注業者の男女二名。今回委託していたのは、店内に設置する商品の折パンフレットの制作だった。
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