第1章

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 瀬名が女受けのする見てくれをしているのは一目瞭然だし、研修を始めて、その飲み込みの速さに見掛け倒しの男じゃない事も知った。育成担当者としては手が掛からなくて助かるが、それは同時に瀬名争奪戦にエントリーする女子の競争率を上げる事になった。その被害を受けるのは、瀬名と一番接する機会が多い俺、という訳だ。 「すんません、俺午後からの外回りの準備あるんで」  それだけ言って、足早にその場をあとにする。いちいち相手にしていたら切りがない以前に、答えたくても俺は瀬名の好みのタイプも家族構成も知らない。立場上昼食は一緒に摂っているが、あまり会話をしない。したとしても仕事の話ばかりだ。  こんな事が続くと思うとぞっとする。いや、それだけならまだ耐えられる。だけどきっとそのうち、メアドを教えろだの、飲み会をセッティングしろだのと彼女達の要求は上がっていくに決まっている。何か回避方法はないかと、自分のデスクに戻る間に頭を捻って……いい考えが浮かんだ。どうしてもっと早くにこうしなかったのかと、清々しい気分になった。  早くも解放気分で昼休みまでの仕事をこなした俺に、現実がずしりと圧し掛かった。 「え、いませんよ」  ぽかんとした表情で瀬名がそう答えた瞬間、目の前が真っ暗になった。 (イケメンのくせになんでいねえんだよ)  そんなセリフは思うに留めて、代わりに舌打ちをした。
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