第5章

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「……お前は、なんでついてくるんだよ」  目前に広がる海の青が、オレンジ色に変化し始めた太陽に少しずつ染められていく。 「駄目ですか? 旅は誰かと一緒の方が楽しいと思いますよ」  瀬名は俺の隣に並んで、ざらついたコンクリートの上で頬杖をついた。 「旅じゃねえって言ってる……」 「……ああ、彼女にフラれたショックで自殺する、でしたっけ?」  瀬名は頬杖をついたまま俺の方を向いた。 「でも割腹自殺だったらそれなりの刃物を調達するところから始めないと。……どうするんですか?」  からかうように笑われて、俺は逆上した。どうして瀬名は笑ってるんだろう。こんなめちゃくちゃに付き合って、振り回されて。瀬名がさっさと俺を見捨てていれば、こんなところには来ていなかった。瀬名が俺を笑って許す度、頭も心もぐちゃぐちゃになって……惨めな気分になる。 俺は、勢いよく防波堤に飛び乗った。 「え、悠木さん?」  砂浜に着地して、早歩きで一直線に進む。 「ちょっと、悠木さん」  瀬名の声もあとに続いた。だけど俺は振り返りもしなかった。途中で砂浜には不似合い過ぎる通勤カバンを放り投げて、革靴も脱ぎ捨てる。徐々に地面の色が変わって、靴下が濡れた。少しだけ躊躇って、俺はそのまま真っ直ぐに進んだ。 「悠木さん! 何してるんですか」  膝の上まで海水に浸かった辺りで、瀬名に右肩を掴まれた。俺は無言でその手を振り払って、更に深いところへと足を進める。
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