第5章

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第5章

 瀬名は俺の唐突な行動に困惑している様子だった。そんなの……俺だって自分の行動に戸惑っている。馬鹿な事をしているとも思う。だけどもう、乗り込んでしまったし、……決めてしまった。 「どこへ向かっているんですか」と訊ねられて、適当に「山」と答えた。ふと、自分が本当に自ら命を絶つとしたら、どんな方法を選ぶのか空想した。行き着いた答えを瀬名に伝えたら、きょとんとした顔をして、やがて可笑しそうに「悠木さんらしいです」と笑った。それ以降瀬名はこのはちゃめちゃな道行きに開き直ったのか、数時間前までの修羅場が幻だったかのように、普段通りに俺に話し掛け、挙句途中の駅で弁当やお茶を買い込み、まるで楽しんでいるかのように振る舞った。逆に俺は、どんどん口数が減って、頑なになった。読めない瀬名の態度にも苛立っていた。  途中、居眠りをして夢を見た。そこは昔住んでいた家の側の踏み切りだった。その頃俺はまだ小学生で、踏み切りは通学路にあった。俺はまっすぐに伸びた線路の先が気になって、通る度にその向こうを見つめていた。例えば、この線路を歩いて行けたとするとどこに辿り着くのか。想像するとわくわくした。同時に漠然とした不安な気持ちも湧いてくる。本当は終着点など存在しなくて、どれだけ進んでも果てはなく、永遠に歩き続ける事になるのかもしれない。取り留めのない幼い空想。そんな昔の記憶を、浅い眠りの中で見ていた。
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