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二つの王朝が相争っていた、前代未聞の時代のこと。都は荒れ果て、御所も荒んでいた――だが今夜はまるで別世界だ。庭も調度も全てが整えられ磨き上げられ、戦が始まる以前、いやそれ以上に華やかで雅やかな宴が催されている。まるで昼間のようにかがり火が焚かれ、妙なる調べに合わせこの日のために選りすぐられた舞姫が舞う。杯を手に笑いさざめく若い公達は高嶺の花の姫達に趣向を凝らした和歌を贈り王朝絵巻さながらの恋の駆け引きに忙しい。二十年近くに渡る争いに厭んだ老いた公家たちはそんな光景に胸が一杯になる。
「なんと素晴らしい華燭の典」
「さよう。乱世だということをすっかり忘れてしまう」
「この世情でこれだけの宴を開く力があるとは。さすが、将軍家の腹心、葉庭氏だ」
「戦の策と交渉事に素晴らしく長けており帝の信任も暑いという。我らが晴れて都への帰還を果たしたのは葉庭殿の手柄じゃ」
「ゆくゆくは次の帝の祖父か。戦が終わり太平の世となれば、藤原道長や平清盛以上の栄華も夢ではないかもしれぬ」
「くだらぬ。公家の末裔とは聞いているが、しょせん侍風情ではないか」
「さればこそ。今こそ葉庭一族を盛り立て、地に落ちた朝廷の権威を取り戻」
宴たけなわだった広間に突然、悲痛な悲鳴が上がり、一同は恐怖に襲われた。
「ゆ……幽霊!?」
灯火の届かぬ暗がりに血染めの白い衣を羽織り長い髪を振り乱した若い女がぼうっと浮かび上がった……
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