ハンキョウ

私は無表情のまま動画をリツイートし、スマートフォンの画面を消した。

遠くで台風による洪水の被害が起こったようだ。

その様子を一般の人が撮影した動画がSNS上にアップされ、様々な人にリツイートされて私のもとへもやってきた。

大量の雨水が川を増水させ、溢れ出た川の水が街を飲み込んでいく様子が撮影されていた。

泥で濁った水が龍のような勢いで車や看板を押し流し、二階建ての家屋をも浸水させようとしていた。

ある家の屋根の上には、逃げ遅れた人が取り残されていた。

なすすべもなく、呆然とした面持ちで小さな子どもの手を母親が握り、子どもはその母親にしがみつくようにして身体を恐怖に震わせていた。

その動画はすでに2万リツイートに及び、かなりの反響を得ていた。

まあ、私には関係ないけど。

心の中でそう呟き、私はスマートフォンを鞄の中に入れ、開いた電車の扉を通り抜けた。