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恋の歌
アマンダが語る自分への熱い想いに胸を打たれたルーカスは立ち上がると、車イスに座っている彼女の両肩に両手を置き、二の腕、ひじ、手首、手のひらまでスライドさせながらその足元に片膝をついた。
そしてまばゆいほどに輝く恋する瞳で彼女をみつめる。うるんだ瞳でみつめ返すアマンダ。その両手を優しく握りしめながらルーカスは言った。
「家族と永遠の別れをしてまで……。よく会いにきてくれたね。嬉しいよ。僕も、君が大好き!」
これで両想い成立! アマンダは見事、王子のハートを射止めることに成功した。そしてルーカスは言う。
「それで君にお願いがあるんだけど……。もう一度あのときの歌を歌ってほしい。僕のために」
「はい、喜んで♪」
アマンダは嬉しそうな笑顔で答える。
「だけど、僕にだけ聞こえるようにね。ほかの者には聞こえないように」
ルーカスはいたずらっぽく片目をつぶって言った。彼女があのときの歌声の主とばれてしまうと騒動になってしまうからだ。彼の発言の意図を察したアマンダは、思慮深く頷くと静かに歌いだした。
♫海の上のもっと上に
上から見た海月がいたら
それは明るい夜
岩の舞台で娘らは歌うよ
恋への憧れ
私ここにいるわ
早く会いに来て
あなたをずっと待ってるの
あなたと恋を語りたい♪
「ああ、これだ……。あのときの歌だ……」
彼女の歌を聴くだけで、ルーカスの耳は気持ち良くなり、うっとりとして、体がとろけてしまうようだった。まるでお酒を飲んだときのように心地よくなってしまうのだ。
♫海面よりももっと上に
下から見た夜光虫たちがいたら
それはほの明るい夜
岩の舞台で一人、娘は歌うよ
恋する喜び
あなたとここにいるの
会いに来てくれたから
やっと出会えたわ
二人で恋をしましょう♪
「ああ、もう僕は君に夢中だ……」
アマンダ、声を魔女に渡してしまわなくて大正解!
♢
昼食時、ルーカスはメニューを一つ一つ優しく説明してくれた。その食材についても。海の民はプランクトンと海藻をそのまま食べるだけだったが、人間は空や海や川や陸の生き物や大地が産出する物を火と鍋を使って美味しく料理して食べるらしい。
そしてフルーツ! アマンダはこの素敵な食べ物に夢中になった。
陸に生えている木に実るフルーツは、嗅ぐだけで幸せになれる良い香りがして、甘くて酸っぱくてみずみずしくて夢のような味がするからだ。
もちろんアマンダは、午後のお茶の時間に出されるお菓子にも夢中になった。フルーツとはまた違う甘さと食感の虜になったのだ。
何を食べても嬉しそうで幸せそうなアマンダを見ていると、ルーカスまで幸せな気持ちになった。
その夜。愉しいディナーが済むと二人は、名残り惜しそうにおやすみなさいの挨拶を交わした。
「……じゃあ、良い夜を」
「ええ、良い夜を……」
「ぐっすりおやすみ」
「はい、あなたも」
「今夜は僕の夢を見て」
「はい、夢で逢いましょう」
二人はそれぞれの部屋で眠りについたが、夢の中で再会した。それは素敵な甘美な夢だった。
だが、期限は二日後。
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