十五歳の誕生日

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十五歳の誕生日

30b1e7d1-f4b3-4684-9cad-98b754b02930  幸せな結婚に至る方法? では、あなたたちに教えてあげましょう、ある人魚の恋の物語を。そして、恋を知らないもう一人の人魚の幸せについても。これは、肌の白い人々が遠い異国からもたらされた良い香りの赤いお茶を飲むようになって間もない頃のお話……。 §  十五歳の誕生日を迎え大人になった人魚は、海の外に姿を現すことを許される。それまでは決して海の外に姿を表すことは許されない。いや、海の上に顔を出すことすら許されないのだ。  波の静かな夜、人魚姫のアマンダは生まれて初めて海の上にその顔を出した。初めて頬に触れる空気は、限りなく柔らかく優しい。初めて肺に吸い込んだ空気は、帆立貝の貝殻に覆われた彼女の胸をさらに大きくふくらませた。頭上では真上から見た海月(クラゲ)のようにまんまるな月が煌々と輝いている。  海の中からバシャッと体を躍り上がらせると、ステージのように平たくすべすべとした岩場に乗り上げた。 ――海水で体が濡れている間は、苦しくはならないのよ――  それは姉君たちから聞いて知っていた。それに尻尾を海水に浸していれば、体に潤いを保てることも。人魚姫は岩場に腰かけたまま、澄んだ声で歌い出す。 ♪海の上のもっと上に  上から見た海月(クラゲ)がいたら  それは明るい夜  岩の舞台で娘らは歌うよ  恋への憧れ♪  ルーカス王子を乗せた美しい帆船が静かな海を航行中、王子や水夫たちの耳に美しい歌声が聞こえてきた。 「美しい歌声……。こんな夜中にだれが歌っているんだろう?」  歌声に心奪われたルーカス王子が呟く。 「セイレーンだ! まだ生きておったか……」  老水夫が(おのの)いた。 「これがあのセイレーン? なんと美しい声! 噂にしか聞いたことはなかったが……」  水夫たちは口々に言う。 「あの声のするほうへ!」  王子は指示を出す。すかさず船長が舵を切る。 「いかん! あれは海の怪物だ! 近づくな!」  老水夫は叫ぶ。 ♪私ここにいるわ  早く会いに来て  あなたをずっと待ってるの  あなたと恋を語りたい♪  しかし、歌声に魅入られた水夫たちは歌声の聞こえる岩場へと夢中でオールを漕いで船を進めてしまう。 「やめろ! 座礁するぞー!」  老水夫の絶叫が虚しく響いた。  岩場の後ろで激しい音がしたので、驚いたアマンダは海に飛び込んだ。そして何が起こったのかを確かめるため、岩場の後ろへと泳いで行く。  彼女がそこで見たものは、一隻の豪華な船が横倒しになった姿だった。その船は暗礁に乗り上げてしまったため、バランスを失って倒れたのである。さっきの激しい水音は、船体が岩礁と海面に叩きつけられた音だったのだ。  海面には人間たちの頭が見える。自ら海に飛び込んだり、船から外へ投げ出されたりした人間たちだろう。水夫たちは必死で泳いで難を逃れようとしている。そんな中、泳ぎの苦手なルーカス王子はもがいているうちに力尽き、ブクブクと海に沈んで行った。 「大変!」  アマンダは溺れて気を失った王子を海中でキャッチし、岩場へと運んだ。岩場に彼を横たえ、そのおなかを何度か強く押すと、彼は水を吐き出した。気を失っているものの、王子が息を吹き返したので、アマンダは安心した。 「もう大丈夫よ、しっかりして」  アマンダが澄んだ声で励ますと、ゆっくりと瞼を開く王子。瞳と瞳を交わし合って、彼女は恋に落ちた。  そこへまた別の豪華な船が通りかかったので、身を隠すためにふたたび海に飛び込むアマンダ。その船は隣国の姫を乗せた船だったのだ。海難事故に気づいた隣国の船の水夫たちは、災難に遭った王子や水夫たちを全員救助した。  アマンダはその様子を見届けると、後ろ髪を引かれる思いで海の民の国へと帰って行った。海の王宮へ帰るために泳ぎながら、思い返すのは彼のこと。もう一度あの人に会いたい……。
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