若さと美貌と美声と

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若さと美貌と美声と

b247491c-9264-4796-8e6f-f234eb74b114  両想いの二人の(とき)(めき)をもらった魔女グロリアは、若返りの薬を作って飲んだ。彼女は若返り、それに伴ってかつての美貌も美声も蘇る。グロリアは鏡に映る若くて美しい自分の姿にうっとりしながら言った。 「グロリア、おまえはなんて美しいの。ああ、この美声を聴くのは何年ぶりだろう……。さあ、人間たちにまたアタシの歌声を聴かせてあげよう。みんな、アタシの歌声に魅了されるが良い……」  グロリアはその美しい顔に妖艶な笑みを浮かべた。  一方、才気煥発なアマンダの進言により、ルーカスは突貫工事で海に特設ステージを作らせていた。グロリアのリサイタルを定期的に開催するために、浜から少しだけ離れた海上に小さなステージを急ピッチで作っていたのだ。  もうグロリアの歌声に魅了され幻惑された水夫たちが、船を難破させられないようにするためだった。アマンダは『この国の人々が不幸な海難事故に遭うことがないように』と願っていたのだ。  そしてグロリアのための特設ステージには、陸から通じる桟橋はなかった。人々がステージに殺到しないようにするためだ。グロリアの歌の伴奏者は手漕ぎボートに乗ってステージへ渡る、というシステムを採用した。  これらは人々を海への転落事故から守るためでもあり、グロリアを事故や怪我から守るためでもある。アマンダは人魚の歌声には魔力にも似た強い力があることを知ったので、人々のために万全の策を講じたのだ。  このようなアマンダの人々に対する思いやりの深さや母親譲りの才気煥発さは、国王夫妻からも周囲からも高く評価された。ルーカスはアマンダへの尊敬の念を持つようになり、彼女を誇り思うのだった。  グロリアのリサイタルは毎週水曜日と日曜日、夕凪のころ開かれた。無風状態になり、波も静かになるからだ。人々は若い美貌の人魚を見るために、そして人魚の美しい歌声を聴くために波打ち際にこぞってやって来る。 「この特設ステージ以外の場所・決まった日時以外は歌わない」。これがステージをプレゼントしてくれたアマンダとの約束だった。
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