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グロリアの歌
♪私が求めている物
それは貴男の笑顔
逞しい腕 優しい口づけ
ああ早く私を
抱きしめに来て
もどかしい思いで
貴男を待ってるのよ
真実の愛ならば
二人は必ず巡り会える♪
人々からの注目と鳴り止まぬ拍手、それに喝采……。
「素晴らしい歌！」
「ありがとう、グロリア！」
「美しい声！」
「美しいグロリア！」
グロリアの歌に魅了された人々は、陶酔し、熱狂し、口々に絶賛する。グロリアは栄光に輝き、その心は自信と誇りと幸せに満ち溢れる。
昔から水夫たちは勝手にグロリアのことを海の怪物と呼んで恐れていたが、彼女は人魚の魔女に過ぎない。いや、それだって十分たいしたものだが。
かつてグロリアが若く美声を誇っていたころ、水夫たちが我を忘れて船を難破させてしまうほど自分の歌に魅了されてしまうのが、この上もなく嬉しかっただけなのだ。何も彼女は人間を殺したかったわけではない。
むしろ、リピーターとして何度でも自分の歌を聴きに来てくれたほうが、彼女としては嬉しかった。彼女は一人でも多くの観客からの注目と拍手と喝采を求めていたからだ。いちいち死なれては観客が減ってしまう。
♪貴男は七つの海を
彷徨っている
そう 私を探しているから
私を見つけると
貴男は喜びの声をあげ
私を抱きしめてくれるの
「宝物を見つけた！」と
真実の愛ならば
二人は必ず巡り会える♪
グロリアに恋する男も続出したが、彼女は誰のことも相手にしなかった。彼女が求めているのは多くの観客からの注目と拍手と喝采なのであって、恋心を抱かれることではなかったからだ。
彼女は自分の若さと美貌と美声しか愛さなかった。若くて美しい美声の人魚が、素晴らしい歌を素晴らしい歌唱力で歌うのだから、外国からも観光客がやってくる。彼女に恋する外国人も続出したが、やっぱり彼女は誰のことも相手にしなかった。
♪数え切れないほどの
海の男たちの中から
きっと貴男をみつけ出す
そして岩の舞台に躍り上がり
高らかに宣言するの
「この人は私のものよ
やっと巡り会えたわ」と
真実の愛ならば
二人は必ず巡り会える♪
実はグロリアがかつて若かったころ、彼女は一度も恋をしたことがなかったのだ。そして今回若返って、多くの恋のチャンスに恵まれても、彼女は誰に対しても恋心を抱くことはない。
♪ああ早く私を
抱きしめに来て
もどかしい思いで
貴男を待ってるのよ♪
グロリアは甘い恋や情熱的な恋の歌を情感豊かに歌い上げるものの、彼女自身は恋に興味がなく、恋を知らないままだった。
若返りの魔法の薬の期限は三年。期限が切れたら彼女は……。だけどもし、彼女がその胸の内に恋の炎を灯すことができれば……。
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