失った物と得た物

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失った物と得た物

96973813-a5a2-4df5-9878-475b585b4c95  あの日、三日めの夜。約束していた『両想いの二人の(とき)(めき)』を魔女グロリアに渡したので、アマンダは海の泡にならずに済んだ。  グロリアは二人の(とき)(めき)を抜き取ると、代わりに解毒剤の入った小瓶を置いて海の民の国へと帰って行った。  アマンダは人間の姿になる薬をもらう前に「歩くと足がナイフでえぐられるように痛くなる薬」を飲まされていたのだ。  まずルーカスが起き上がると、アマンダに手を貸して起き上がらせた。そしてグロリアが置いていった解毒剤の入った小瓶のキャップを開けて手渡すと、アマンダはそれを飲み干す。  しばらくして体内に何か変化を感じたアマンダは、ルーカスの手を借りてゆっくりと立ち上がった。痛くない! アマンダの表情からルーカスはそれを悟った。  ルーカスはアマンダの横に立つと、両手のひらを上に向けて彼女の前に差し出す。アマンダが右手を彼の右手、左手を彼の左手に重ねると、二人の肘から先の腕は綺麗なMの形に見えた。二人は慎重に桟橋を歩き出す。大丈夫、痛くはない。  月明かりの砂浜に降り立った二人は、こらえ切れず手を繋いで駆け出す。全然痛くない! 嬉しさのあまり声をあげて笑い、ルーカスはアマンダを抱き上げるとその場でくるくると回った。満面の笑みで見つめ合って。二人の瞳は月光に照らされてきらきらと輝いていた。  この時なら、月など出ていなくても二人の瞳は輝いていたことだろう。言葉を交わさなくてもちゃんとわかり合えていた。二人の思いは同じだったのだから。  彼らは恋心(ときめき)を失ってしまったが、アマンダが痛みを感じずに歩き、走れるようになるという()()を得たのである。
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