水色の馬車に乗って

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水色の馬車に乗って

ce46c382-db1e-4d19-bdb7-eb0805cf41b6  歩けるようになったアマンダは、毎日ルーカスと一緒にお城の庭の散歩を愉しむようになった。すると彼女は庭にある木や草の名前をすっかり覚えてしまった。 「君はほんとに物覚えが良いね」 「だって可愛い草花の名前は、自然と頭に入ってくるんだもの」 「じゃあ今度は森までピクニックに行って、森の中を散歩しようよ。まだ君の知らない草花もたくさんあるよ」 「素敵! ピクニックだなんて愉しみだわ」  無邪気に喜ぶアマンダの顔を、ルーカスは優しい眼差しで見つめて微笑んだ。  どこまでも高く抜けるように青い秋空の(もと)、二人を乗せた水色の馬車は森に向かって軽やかに駆け抜ける。今日はアマンダにとって初めてのピクニック。 「ねえ、ルーカス。森にはどんな木や草があるの? お花はたくさん咲いてる?」 「森には君の大好きな実を結ぶ大きな木がたくさんあってね、怪我や病気を治してくれる薬草もあるんだよ。それに珍しいお花や可愛いお花だって咲いてるんだ。特にこの時期なら、懐かしい物に会えるかもしれないよ」 「懐かしい物? 私、森に行くのは初めてよ。行ったこともない場所で懐かしい物に会えるって、どういう事かしら? 私が以前から知っている何かが、森にはあるの?」 「それは見てのお楽しみだよ」  いつしか石畳の道は土の道に変わり、窓外に見える木々の数は増え、緑の匂いも濃くなってきた。 「ああ! これが森ね! いい香りがするわ。木がとってもたくさんあるのね!」 「そうだよ、あの木をよーく見てご覧。懐かしい物が見えるだろう?」  ルーカスが指差す木をアマンダはしげしげとみつめる。 「何かしら? 茶色っぽい丸い物が見えるけど……」 「よし、ここで降りて見てみよう」  ルーカスのたくましい腕を借り、アマンダは馬車から木のそばに降り立った。 「ウニよ! ウニがいるわ! どうして森に !? ウニが木に登ったんだわ! あっちの木にも、こっちの木にも!」 「もっと近付けばわかるよ」  アマンダは木の下まで行き、ウニを見上げて不思議そうに話しかける。 「ねえ、あなたたち。どうして海から森にやって来たの? どうやって木に登ったの? だれかに連れて来られて、木の上に乗せられちゃったの? 海に帰してあげましょうか? 陸に上がったら、干上がっちゃうでしょ? こんなにカサカサになって……。お水欲しいでしょ? 真水じゃダメよね、海水でなきゃ。なんとか言ってちょうだい。渇きすぎて声も出ないのかしら?」  アマンダはウニたちを心配して懸命に話しかける。 「テッテレー♪ ドッキリ大成功! アマンダ、これはクリの木で、ウニのように見えるのはクリの実なんだよ」  ルーカスは愉しそうに種明かしをした。 「クリの実……。ウニじゃなかったのね?」 「これが地面に落ちたら食べ頃の合図で、拾って中身を取り出して食べるんだよ」 「良かった! ウニたちが干からびて、返事もできないほど弱ってるのかと思ったわ」 「アマンダは優しいね。そんな君が大好きだよ」 「私はこういう楽しい驚きを与えてくれるルーカスが大好き♪」  アマンダはルーカスの腕の中に飛び込む。力強く抱き止めるルーカス。そして二人は白い歯を見せて微笑み合った。
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