その後の二人

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その後の二人

4b39168e-6b21-4a31-ba8e-33e8b76053df  結婚式が始まった。花嫁は花婿の待つ祭壇に向かって、一風変わったヴァージンロードを歩む。一歩、また一歩と。白い小さな花をいっぱいつけた小枝で作ったブーケをしっかりと握りしめながら。これは小さな花を子どもに見立て、多産を願う風習だ。  花嫁のアマンダは極上の薄布で作らせた明るいアクアブルーのマーメイドラインのウェディングドレスを(まと)っている。それは元人魚姫である彼女の美しさを最大限に引き立てる色とデザインだった。  ドレスの袖は、肘上あたりから手首にかけてベルのような形に大きく九十度にも開いたベルスリーブ。その袖口はひらひらのフリル状になっているので、彼女が()を進めるたびに水中を舞う魚のひれのように優雅に揺れる。  人魚の尻尾のようなデザインの裾は床まで届き、足元はまったく見えない。どんな靴を履いているのかさえ。だが人間の脚を手に入れたアマンダは、もはや痛みを覚えることもなく自分の脚で歩いているのだ。愛するルーカスの(もと)へとまっすぐに。  豊かな髪を結い上げた頭上には天然真珠をふんだんにあしらったティアラを戴き、同じく天然真珠のイヤリングとネックレスがそれぞれ、花嫁の耳元と胸元に輝く。それらは彼女のつややかな肌の色を一層引き立てている。  極薄のウェディングベールは短め。腰までの長さもない。これはアマンダが「風に軽やかになびく物を」と選んだからだ。  そしてブーケを握る右手の薬指には、婚約指輪として贈られたサファイアの指輪。この後、結婚指輪を左手の薬指にはめてもらうために、一時的に右手の薬指に付け替えているのだ。ルーカスがアマンダのために取り寄せた鮮やかなブルーの質の良いサファイアは、明るいアクアブルーのウェディングドレスによく映えている。  今アマンダは、桟橋をヴァージンロードとして渡っているところだ。実はルーカスのアイデアで、海へと続く桟橋の先に祭壇が(しつら)えられたのである。だからアマンダの親族や仲間たちもこの日だけは特別に、祭壇の向こう側に広がる海の中から顔を出して、二人の結婚式を見守ることができたのだ。  桟橋の両サイドには教会のように横並びの座席を置けるように仮設の板の間が設けられ、そこにルーカス王子の親族である王族や近隣諸国から招いた国王夫妻や王太子夫妻、そして貴族たちが列席し、美しい花嫁が凛々しい花婿の許へと進むのを見守っている。  極薄で短めのウェディングベールは潮風に吹かれ、計算どおり軽やかになびいている。
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