さようなら、ありがとう

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さようなら、ありがとう

c2236553-b7d2-4255-af6b-c0c615625501  花嫁アマンダが花婿ルーカスの(もと)にやって来ると、二人は祭壇の前で永遠の愛を誓い合う。  祭壇の向こうではアマンダの親族と仲間たちが、二人の後ろではルーカスの親族である王族や貴族たちが見守っている。ルーカスが海難事故に遭った時に救助してくれた『隣国の姫』は先月、かねてから婚約していた『さらに隣国の王太子』の(もと)に嫁ぎ、今日は夫妻で列席してくれている。  そしてその後ろの浜辺には、数えきれない国民が。若いロイヤルカップルを一目見ようと詰めかけたが、誰も騒いだりせずに行儀良く神妙にしている。  それからルーカスは、小さなつぶつぶ模様がたくさんある(まばゆ)(おう)(ごん)の結婚指輪をアマンダの左手の薬指にはめた。これら小さなつぶつぶは、子宝(こだから)に恵まれることを願ってミル打ちされたものである。  これはルーカスの妻の証。アマンダはサファイアの婚約指輪も嬉しかったが、この結婚指輪のほうがもっと嬉しかった。ルーカスのために、赤ちゃんをたくさん産もう……。  次にアマンダがひざまずくとルーカスがウェディングベールを上げる。そして手を差し伸べてアマンダを立ち上がらせた。二人は祭壇の前で厳かに誓いのキスを交わす。  その一部始終を列席者全員が見届けた。「美しい二人のその姿は、一幅(いっぷく)の絵のようだった」と後に列席者たちは語っている。  自分たちの結婚を双方の親族と仲間たちに認められて祝福され、アマンダとルーカスはこの上もなく幸せだった。  二人は退出するために祭壇に背を向ける。アマンダ妃はルーカス王子の腕に自分の腕を回した。そして自分の親族や海の仲間たちを背に、夫と共に陸に向かって桟橋を歩き始める。ウェディングベールを軽やかになびかせながら。  さようなら、お父さま。さようなら、お姉さまたち。さようなら、親切にしてくれた海亀のおじいさん。さようなら、仲良くしてくれた海の民の国の仲間たち。ありがとう、私を愛してくれたみなさん。そして、私を産んでくださってありがとう、亡くなったお母さま。幸せになります――――。  ロイヤルカップルが桟橋を渡り切り浜辺に降り立つと、浜辺を埋め尽くしている国民が熱狂的に祝福する。  ルーカス王子が浜辺に詰めかけた国民に向かって高く手を挙げ大歓声に応えると、拍手が湧き起こった。  アマンダ妃もブーケを持った手を高く挙げて左右に振る。できるだけ遠くにいる人にまで見えるようにと考えて。ブーケからは白い小花が舞い散り、花嫁の髪にベールに小雪のように降りかかる。すると再びの大歓声。皆、美しい花嫁を大歓迎しているのだ。アマンダはこんなにたくさんの人々から祝福されて幸せだった。  だけど、これでもう本当に、海の民の国の家族とは永遠の別れだった。淋しいが、やがてこれから生まれてくる新しい家族たちが、その淋しさを埋めてくれることだろう。  結婚式の翌年、王子が誕生。その翌年も王子誕生。その翌年は王女が誕生。そしてその翌年も王女誕生。苦しいつわりも、出産の痛みも、愛する夫のためなら耐えることができた。  アマンダは王子王女たちのために毎晩子守唄を歌う。子どもたちはすやすやとよく眠った。寝る子は育つ。子どもたちはみな、元気にすくすくと育ってゆく。  アマンダとルーカスはいつまでもいつまでも愛し合い、その後も愛の結晶であるたくさんの王子と王女をもうけた。  そして結婚式から多くの年月を重ねた今も、幸せな結婚生活を送っているのだ。二人によく似た、純粋で朗らかで思いやりのある聡明な王子たちと王女たちに囲まれて。
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