元人魚姫はヴィーナスじゃない〜恋と若さと美貌と美声〜

恋の命は……

　一方、恋を知らない魔女グロリアはどうなったのかと言うと……？
　若返りの魔法の薬は、三年で効力を失ってしまった。だけどもしグロリアが、その胸の内に恋心を芽生えさせることができたなら、彼女は若々しさを保ち続けることができたのだ。
　でも残念ながら、今回も彼女は自分しか愛せなかった。自分の若さと美貌と美声しか。魔法の薬の効力が切れて、自慢の若さと美貌と美声を失い、元の醜いしゃがれ声の老女に戻ってしまったグロリアは老醜を恥じ、暗くて深い海の底へと再びその身を隠してしまった。
　それで今はもう、夕凪の頃に海辺に行っても、あの人魚の美しい歌声は聴こえてこないのだ。

§

　だから娘たちよ、いつまでも若く美しくありたいなら恋をなさい。それから息子たちよ、恋人にいつまでも若く美しくあり続けてほしいのなら、決して彼女の恋心を冷ましてしまわぬよう気をつけるのですよ。
　そして幸せな結婚に至るために、この事を覚えておきなさい。『恋の命は長くても三年』と。
　だから、恋が冷めてしまうまでにたしかな愛を育(はぐく)んでおくのです。恋(・)は(・)冷(・)め(・)て(・)も(・)真(・)実(・)の(・)愛(・)は(・)決(・)し(・)て(・)冷(・)め(・)な(・)い(・)のだから。
　そう。あなたたちのお父さまと、この私の愛のようにね。

　おしまい♪　

　イラストは<a href="https://jp.freepik.com/vectors/water">Brgfx - jp.freepik.com によって作成された water ベクトル</a>より。